ローン型の個人向けファイナンス
ここで、金融(ファイナンス)の意味について、きちんと確認しておきましょう。たとえば、AさんがBさんに5万円というおカネ(現金)を貸す。Bさんは1ヵ月後から毎月2万円ずつの現金をAさんに渡し、3ヵ月で計6万円を返す。誰もが、これは金融取引だと考えるでしざつ。なお、返す金額が1万円多いのは、金利に当たります。このような取引をアタマに思い浮かべて、金融とは「おカネの貸し借りだ」と考える人が多いのですが、金融の本質をつかむには、異なる定義を覚えてください。金融とは「交換のタイミングのずれ」だと考えるべきなのです。
たとえば、先のケータイの売り方のように、いま、AさんがBさんに、単にケータイなどの商品を渡す。そして代金を1ヵ月後から少しずつ支払ってもらう。全体としては、AさんとBさんが、価値をもつなにかを交換するのですが、同時に交換するのではなく、AさんがBさんに価値(ここでは商品)を渡すタイミングと、BさんがAさんに価値(ここではおカネ)を渡すタイミングがずれています。この交換のタイミングのずれこそが金融であり、その代表的な例のひとつが、おカネの貸し借りです。この定義に基づけば、初期負担ゼロ円でのケータイ販売は、当然に金融の性質を組み込んでいるといえます。取初からこの説明をしてもよかったのですが、わかりにくい読者もいると考えて、先ほどは、クレジッ卜やローンと対比しながら説明しました。
さて、ローン型と株式型の区別をしました。がっての日本では。家やクルマや高額な家電製品といったものは、住宅ローン、自動車ローン、個別の買い物についてのクレジット契約、資金使途を制限しない消費者ローンなどの後押しがあって、販売を伸ばしていました。「ローン型の個人向けファイナンス」が、個人消費を増幅する役割を果たしていたのです。それが機能した背景には、「右肩上がり」という言葉でよく表現される日本経済全体の成長がありました。かつての日本では、どんな企業に勤めているか、どんな職種に就いているかで、賃金所得には高低差があるとしても、たいていの人が、賃金所得は定年退職まで伸び続けると信じていました。相対的に、いまより将来のほうが賃金所得は高いという前提で、生活設計をしていたわけです。
だからこそ、100万円の自動車ローンを借りてクルマを買い、その返済をしながらも、生活水準を少しずつ高めることができました。そしてローンが完済できれば、つぎはもっと高価なクルマを、またローンを組んで買う。そうして多くの消費者は、時間が経つほどに消費を伸ばしてきたのでした。ところが、高度経済成長が終わり、2度の石油ショックがあり、バブル経済が崩壊し、2000年前後からデフレ傾向が定着し、日本全体での経済成長を前提にしたしくみは、徐々にいろいろな問題を引き起こすようになりました。ローン型の個人向けファイナンスもそのぴとつです。
日本の大卒男子の賃金所得は、近年、40歳代前半を境に伸び悩むようになりました。平均的な傾向として40歳代前半からの伸びが鈍化しているのですが、終身雇用と年功序列賃金の制度がまだ維持されていて、40歳以降も賃金の伸びが鈍化しない企業や職種はたくさんあります。その一方で、40歳代前半から賃金がほとんど伸びなくなる人たちがいて、その比率が増えてきたから、日本人(大卒男子)の平均をとると、賃金の伸びが鈍化したようにみえるわけです。40歳代前半から将来となると、子供が成長して大学進学などで高額の教育費がかかるといった時期です。住宅ローンも、40歳代4 50歳代の賃金所得の伸びを前提に組まれることが多いはずです。そういった年齢で賃金所得が伸びない人たちベ ローン型の個人向けファイナンスでおカネを借りてしまうと、その返済負担のために、あとの生活が一気に苦しくなります。